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タイトル:odds and ends 奇集
名義 : 鈴木 昭男
出版社 : HÖUREN
出版コード : MIMI-012
              013

鈴木昭男、宇都宮泰、HÖURENの3者による共同企画で2002年5月発表の2枚組CDである。

本作は鈴木昭男の’75年から’01年にかけて行われた様々な自修イベントや創作楽器の、主として自家用録音物から彼自身が選んだものである。しかしながらそれらの録音物の多くはコンパクト・カセット・テープであったり、初期フォーマットのDATテープであったりしたため、そのままでは完全な再生は困難であった。

なぜなら、アナログ録音の宿命とも言うべきテープの蛇行や速度の不安定、テープ毎に異なるアジマス角などは言うに及ばず、録音に用いられたマイクなのか、ケーブルなのかは判然としないが、L/R間の位相極性が間違ったりしているものを、数少ない手掛かりをもとに録音時のコンディションを完全に再現しながら復元しデジタル化しなければならなかったからである。

数年前、私は鈴木昭男とCDの音について論じたことがある。もちろん私や彼はオーディオ評論家ではないのでCD一般について論じたのではなく、自分の作品や記録としての録音物についてなのであるが、その時彼は「カセット・テープにも劣る」と断じたのである。多くの性能項目でCDフォーマットはカセット・テープより優れており、今更何を、と彼の友人達は口を揃えて彼を説得したそうであるが、彼にはそれがどうしても納得できなかったらしい。

私が彼と話してわかったことは、その劣る部分とは、言葉や数値では表しにくいが、「空気のようなもの」であるらしく、そのとき私はその「空気のようなもの」が失われるのはCDフォーマットの問題ではなく、その制作プロセスによって失われる場合と失われない場合があることを説明した。しかしその場ではにわかに彼の確信を打ち崩せるわけもなく、再会を約束し帰宅した。

その後私は、「JON&UTSUNOMIA( )」を持参し彼のもとを訪れ試聴していただき、「それ」が失われていないことを確認して・・・・・どころか彼自身が望み想像する以上のものだったそうである。(本当は「( )」はマスターと比べると「それ」が少し失われている。現在はさらにプロセス改善がなされ、より失われなくなっている。)

さらにその後、彼は彼の要求に耐えるハードウェアの入手と、宇都宮の派遣したアシスタントの参入により、彼の自修にCD-Rというメディアが加わり、それまでの時間を取り戻すかのように意欲的にプライベートCD作品が制作されている。その遊びの中で生まれたベスト版とも言える私への音の手紙がこの2枚組の雛形なのである。収録されている内容は言葉による説明は無意味なので避けるが、それは聴いて理解できる者にはそれだけで十分だからだ。

                                          2002年 宇都宮 泰